コンクリートのなかの極楽浄土-本福寺 水御堂

三洋電機と安藤忠雄

20世紀最高の寺院建築といわれるお寺が淡路島にはあります。本福寺 水御堂。設計したのは日本が誇る世界的建築家、安藤忠雄氏。
もともと、この本福寺は300世帯近い檀家を抱えた普通のお寺。その檀家の中に三洋電機の設立者、井植歳男さんがいらっしゃいました。三洋電機が大きくなったらお寺を建て替えると歳男さんは住職と約束していたそうですが、その約束を果たせないままに歳男さんは帰らぬ人となりました。
その約束を受け継いだのが、歳男さんの息子で元三洋電機会長兼CEOの井植敏さん。建て替えにあたり、敏さんが相談したのが安藤忠雄氏。安藤氏にとって寺院建築を手掛けるのは今回が初めてであったため、全国各地の寺院建築を見て回り、研究を重ねたそうです。そして出てきたスケッチが丸いコンクリートの上にハスの池がのったもの。
「やはりお寺はお寺らしいほうがええんちゃうか?」
住職をはじめ、すべての檀家の方から猛反対されたそうです。
この稀有な建築を実現させたのは井植敏さんの想い。最初は檀家の皆さんと共に戸惑っていた敏さんも、相談した京都の大徳寺、立花大亀老師の「これはすごい。すぐにつくりなさい。」という一言で、これこそ将来、淡路の誇るべき宝になると確信したそうです。

「皆さんもいずれお墓に入る。その時、お子さんやお孫さんが淡路にお参りに来てくれるでしょうか。旧来の抹香臭いお寺ではなく、若者にも感動を与えられるような新しい時代のお寺にしましょう」

檀家の皆さんを説得され、ようやく実現に至ったとのことです。 (参考:日本経済新聞/私の履歴書 井植敏)

20世紀最高の寺院建築

水御堂がユニークなのは、楕円形のコンクリートで作られた蓮池の下に本堂があるという点。本堂から雑木林を抜けると、大阪湾を一望できる小高い丘の上に、コンクリートで出来た、大きな曲面の壁が現れます。これは、俗界と聖界との境界を表しているとか。池のハスはスイレンのほか、約2000年前の地層から発掘された大賀ハスも浮かんでおり、神秘的な雰囲気。本堂の入り口はなんと池の真ん中に伸びた通路から下へ降りる階段を通ります。目線が蓮池と同じになる瞬間があり、池の下に入って行くという、何とも不思議な感覚にさせてくれます。
中に入ると、安藤忠雄の代名詞ともいわれる打ちっぱなしのコンクリートと朱塗りの建具の組み合わせが美しい空間。なるほど、寺院っぽいと妙に納得できる厳かな雰囲気が広がります。 そして、奥に進むと本尊の薬師如来像が鎮座する間に出ます。この堂は自然の光が取り込まれる設計になっているのですが、夕暮れ時になると、西側からの光が薬師如来像を背面から照らし、まさに西方にある極楽浄土を思わせる美しく、荘厳な空気に包まれます。訪れる際はぜひ、夕方を狙って行ってみてはいかがでしょうか?

本福寺 水御堂

山号 佛照山
宗派 真言宗御室派
寺格 別格本山
本尊 薬師如来像
創建年 平安時代後期
札所等 淡路四国第五十九番霊場
文化財 薬師如来像(市重要文化財)
設計 安藤忠雄/安藤忠雄建築研究所
竣工 1991年
受賞 第34回建設業協会賞

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